『アフターデジタル2 UXと自由』
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第一章
リアルとデジタルのベン図ではなく、デジタルにリアルが包含されている世界観。純粋なオフラインという状況が少なくなる。 https://gyazo.com/eded6133e0c611130f5cb46f1d6583a3
第二章
アリババとテンセントが同じカテゴリでサービスを提供していても、異なるミッションでそのカテゴリを捉えているため、同じようなサービスにならないのです。
その日私は部下を数人連れて、プロジェクトの打ち上げをしていました。楽しく食事を終えたタイミングで、上司である私はメンバーに「今日は僕のおごりだから、払わなくていいよ」と伝えました。すると1人の部下が「私もお金を出します」と言ってくるのですが、「いやいや、要らないから」と笑っていると、その部下は「100元だけでも払います」と言いながら、なんとWeChatPayで100元送ってきたのです。このとき、はっと気が付きました。これは、日本でもよくある「とりあえず財布を出して、お金を出す気がある雰囲気を出しておく」という行動なのではないか、と。試しに、「え、じゃあ本当にもらっちゃうよ?」と私が受け取りボタンに指を伸ばそうとすると、その部下は若干「え?」みたいなリアクションを隠しきれないまま、「も、もちろんです。受け取ってください!」と言ってきます。もちろん、「嘘だよ」と言いながら受け取らなかったわけですが、そのとき、テンセントの狙いをはっきりと感じ取りました。「すべてをコミュニケーション化する」テンセントは、「お金の受け取り一つにもコミュニケーションが発生する」と考え、日本でよく行われる「財布を出すポーズ」をデジタル上でできるようにしたのです。「なるほどな」と思いました。通常のWeChatペイの操作はなるべくタッチ数が少なくて済むように無駄が省かれているのに、あえて「無駄」を作っているのはそういうことだったのです。 サービスの利便性や世界観が優位性を持ち、商品の購買がサービスのジャーニーの中に埋め込まれていく状態が進んでいる、ということです。これを「コマースの偏在化」と呼んでいます。 モバイルが当たり前のように使われ、リアルとデジタルが融合して生活に溶け込む時代になると、特定サービスへのロイヤルティーが高まってファンになり、「そのサービスが選んでいる」という心理的な付加価値や、「ポイントもたまっていて便利だから」というインセンティブによって、そのサービスからモノを買ってしまうようになります。このとき、検索や比較検討という行動は起こりません。
第三章
グローバルな個別事例を「国家の運営体制」「経済構造」「文化背景」の観点で捉えることで、「同じことが日本で起こり得るのか」「起こるとしたら日本にどのようにしてローカライズするのか」などを考えることができると思います。
(1)アリババかテンセントに選ばれれば、10億人を抱えるスーパーアプリの「サードパーティサービス」になれる。サービサーにとっては労せず高頻度接点を得ることができる状況を作った(図表31)。
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「データに関しては、おそらく中国で一番研究し、様々なことを試してきたけど、データはソリューションにしないとお金にならないんだ。例えば『10社でデータエコシステムを作ろう』となったとして、すべての企業においてデータの形が違う。姓と名の間にスペースがあるかないかだけで、もうデータは突合できなくなってしまうので、突合のためにはどこかが主導してすべてのデータを整理し、そろえなければならない。それには膨大な時間とお金がかかるので、誰もやりたがらずに終わってしまうんだよ」
「そのデータも、ただきれいにそろえただけでは、どうやって使うか分からないので、お金を使うだけ使ったとしても、あんまり意味を持たない。データとはその解釈とセットでないと意味を持たないし、お金にならないんだ」
「ECのデータなら、買った・買ってない、閲覧した・閲覧してない、といったデータだからまだ活用余地を見いだしやすいし、アリババはそれをマーケティングソリューションにして売っている。『どんなデータの活用価値が高いのか』をトライアンドエラーしながら判断しているし、そのために傘下に加えた企業の持つデータをアリババのデータとして使えるようにクリーニングし、突合している。これはソリューションをより豊かにするために必要なデータを把握した上で、アリババ主導でやっているからできることなんだ」
第四章
現在のDX推進者のデータ利用の認識を見ると、手触り感のない「ハイレベルなデータ議論」による大きなデータ幻想を抱くケースや、企業の利益のみを見てユーザーが不在になっているケースが多く、ここに危なさを感じています。実際、データが直接的にお金になるような事例はほとんどなく、ソリューションビジネスに転換したり、マーケティングの効率化に使ったりといった成果事例しかありませんし、それらは、これまでも十分に実施されてきたSaaSやデジタルマーケティングの範囲を出ません。アフターデジタルでは、「ユーザーの行動データをそのまま自社の利益にのみつなげるのではなく、UXに還元することで、ユーザーとの信頼関係を作っていく」「行動データを使って提供価値を増幅させる」ことこそが、データ活用のスタンダードであると考えています。 データをUXに還元することで、ユーザーからの信頼と、サービスへの吸着が生まれます。そうした上で、より高い付加価値を提供して課金したり、より高頻度に接するユーザーが増えることで新たなビジネスにつなげたりすることで、社会にも自社にもユーザーにも、結果として利益をもたらす構造を生み、持続可能なビジネスをもたらします https://gyazo.com/585803219aa6db18aa9b1e6fccc4431a
なぜビジネスモデルを先に決めないかというと、ユーザーの状況が判明し、世界観が決まり、自社で提供できるテクノロジーエッジを踏まえて体験を作った結果、あるべきビジネスモデルは大きく変わってしまうことがほとんどだからです。ビジネスモデルは、世帯数、利用頻度、価格、競合優位性などがある程度見えないと作れません。例えば、日用品の宅配サービスを考えたとき、初めは「全国で広く、週に1回は使ってもらえる」だろうと考えたとします。ところが、月に1回程度でまとめて配達してくれれば十分な地方のユーザーと、2日に1回なるべく細かいニーズに対応して配達してほしい都市部のユーザーがいて、かつ、それぞれに異なる競合がひしめき合っているとなると、当初作ったビジネスモデルが容易に破綻してしまいます。
テクノロジーの業務への活用方法には、「人間を介在させずに自動化するタイプ」と「人間と協業するタイプ」の2種類があります(注)。「UX企画」という分野はまだまだAIに実行できるものではないため、後者のような「いかにテクノロジーで人の価値を増幅させるか。いかに人の企画を支援し、共創できるか」が鍵になっていると言えるでしょう。人が行う業務は「ユーザーの状況理解を基に、今までにないものを追加すること」であり、具体的には「新機能の追加」「新たなコンテンツ作り」「サービス上の導線変更」「新しい自動化条件の追加」などが該当します。
膨大に行動データが出てくる時代の「ユーザー理解」は、その人たちの行動履歴がデータとして残り、それを基に「どこで違和感を抱いているのか」「どんなコンテンツが好きなのか」といったことが理解できるため、圧倒的に解像度が高まります。「タイミング・コンテンツ・コミュニケーションを最適化する」といった自動化とは異なる手法として、このようにユーザーの状況を把握し、ユーザー理解の解像度を高めることで人間の思考や企画を助けることが可能になり、膨大なデータから判別されることで、人間の限られた処理能力では見落としていた課題に気付けるようになります。 (2)「仮説や施策結果のチェック」「ユーザーが思った通りに使っているか」「何人が想定通り動いているか・いないか」まで検索して確認することで、検証の精度を圧倒的に高める支援。こうした処理をするには、ユーザーの同意を得た上で、「Aさんの行動履歴」といった形で、全行動データがユーザーIDにひも付けられ、時系列に並んでいる必要があります。ユーザーIDごとにデータが整理されている、と言い換えることもできます。業種やサービスによっては個人名や属性データとつなげる必要はありません。これは「藤井保文という30代男性が何かをした」というデータは不要で、「ID番号054321のユーザーが、過去に2回購入直前で利用をやめ、それ以降半年サービスを使っていない」「同様の行動パターンでサービスを退会したユーザーが1,000人いる」と分かっただけで十分に目的が達成されることも多いでしょう。属性データや実名にひも付く価値が高い場合は実名につなげる必要がありますが、目的次第ではつなげなくても十分な企画や改善ができるかもしれません。
こうしたことを実現するには、関連するサービス群のIDが統合されている必要があります。単一のサービスであれば特に苦労はないですが、複数の事業、サービス、接点ごとにまったく別のIDで管理されている場合には、これらをまたがった統合に苦労するでしょう。
以前、とあるギフトサービスでは、上記に近しい傾向が見られたそうです。同社は顧客の状況を理解するため、さらに深掘りした分析を行ったところ、2つの特徴があることに気が付いたそうです。1つは「2人が定期的にギフトを贈り合っている行動」です。これは、カップルが互いに贈り合っていると考えられます。もう1つは「多くのユーザーが1人に向かってギフトを贈っている行動」でした。これをさらに調べてみると、どうやら「地下アイドルに対してファンがギフトを贈っていた」のです。同社の担当者も「なるほど、そういう使い方があるのか」と、はっとしたそうです。つまり、「1カ月に3回購入する人」「1カ月に4回購入する人」の違いと、定着するかどうかには何の因果関係もなかったのです。仮に3回購入した人に「4回目用クーポン」を送っていたとしたら、定着する可能性のない人に投資してしまう赤字施策になってしまっていたわけです。
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第五章
Amazonの「置き配」は非常にOMO的です。宅配ボックス、玄関、ガスメーター、車庫、自転車かごといった選択肢から「置き場所」を指定しておくと、指定した場所に置いてくれて、置いた後に配達員から「ここにこんなふうに置きました」という写真がメールで送られてきます。まさにユーザーの論理からすれば、「それくらい、前からやってくれていてもよかったんじゃないか」と思うようなことなのですが、企業目線の論理からすると、「もし盗まれたらどうするのか」「風に飛ばされたり、雨にぬれたりする可能性がある。そのときはどうするのか」といったリスク・不確実性から、なかなか正式には実施できませんでした。とはいえ、実は少し郊外に行けば、配達員から電話がかかってきたときに「今不在なんですけど、こっちで責任を持つので、ガスメーターの中入れておいてください!」といったやり取りは既にされていました。 なお、Twitterで「置き配したら盗まれた」と書いた瞬間、Amazonの公式Twitterから相談窓口のURLが飛んできて、トラブル対応をしてくれるそうです。その迅速さと素晴らしさに感動した、という話もあるようです。どうしても起きてしまうトラブルに対して、多少泥臭くてもきちんとSNSを巡回しつつ、対応の手厚さによってピンチをチャンスに変えていますし、なるべくコミュニケーションの齟齬がないように、置いた荷物と周辺の写真を送る対応を行っているところは、さすがと言わざるを得ません。「OMOというには小さい事例だ」と感じるかもしれませんが、多くの企業がこうしたリスクを解消できず、実現せずに終わっています。ユーザーにとっては、このような体験の有り無しが、サービスを選ぶかどうかを大きく左右しますし、企業論理ではなくUXを中心に据えられるかどうかは、企業・サービスとして天と地ほどの開きがあるため、これはOMO的事例です。